2019-01-01から1年間の記事一覧

色づく頬

こんなに長い夜でも、あなたの声がわたしに松明をかざして頬を色づけたそのおかげで、夕顔が咲き、街や干された服が褐色に染まるのを何十年経っても恥ずかしいと思えるのでしょう。

涵養域

私のなかで滴る、 歳月をかけて凍った、氷柱のことを話そう くいしばっている 水の重み、 が、 地下へ、地下へ、と内部を蝕ばむ 私に垂れ下がった、 縫うための先端、 あくまでも、時刻という皮膚をつなぎ合わせ 気象をつかさどっていた、万年雪の、身体のそ…

心臓

私の 振動音で寝つけなかった夜、 あの棘の、 イラクサの葉汁を飲み干していた

また

砂を握った、 指のまたからまた流れていった かつて、 城や 複合体と呼ばれていた、私の単位 を、元に戻すため、 片目に、 水を撒き、 くちびるにまとめていく

擬態語

とどのつまり、いくら自らの生死や他者への献身にかこつけて実存または現実を書く理由を美談に仕立てあげたところで、欺瞞なのだ、目にうつるもの全てを食い物にしているくせに。猫の鳴き声に触発されて「にゃー」と模倣し、利用し、擬声語にするような身勝…

起伏の激しさ

神話のなかで、山脈の禍々しい起伏を、あれは罪の証で醜悪だと捉えた人たちがいた。だったら、よもや都市のうねった高層ビル群も荒々しいとしなければ。洪水を起こしたのも僕たちだった、と。

copy

現代の世では誰しもが気軽に写真にしろ何にしろうつせてしまう、特に文章で書くような実存なんて、晴眼者にはうつされたものの劣化かつ時代遅れな風潮じゃなかろうか、と過去から今に至るまで、 ひしひしと一層大きく感じられる。物語が少しでも長く生き残っ…

裂開

風景は二重なうえに、過去、現在、未来の三つ声が同時に聞こえてくる始末で破裂しそうになっている。順番に一つずつで、追いつくまで待って、はことごとく無視される。種子、卵、果実のように、 「僕らは砕かれたときに最良のものをだす」 と友人が話してい…

天動

明るい場所では地動説を事実としたが、私たちが暮らす暗い北では、重いのは女で、だから土を捏ねあげて最初の人間を作ってもいいのだ。

苔むした思考

熊野古道の石段が苔むしていたり、土が積もった巨石の頭に木々が生い茂ったりすると、鉱物自身には神々や新たな命が与えられているようなのに。どうして思考だと、長年の放置で呆けたまま、こうも、ぼうぼうに隠されるのか。

現実との境界

山の後ろから日が昇りはじめ、部屋や庭木が色づいたり輪郭の影を帯びたりするのは視覚的に賑やかさを感じる反面、鳥の小さなさえずりなどを耳にし、やっぱり静かだよな、と改めて胸を撫でおろす朝にーーこちらでは、影はどこに、私たちや幽霊、落ちた鳥がど…

夢とは別の、現実の夢たち

それでも、私やあなた、ミツバチの羽音、椿の紅色、梅花の香り、を夢としてしまうには傲慢だ。とっくに私の手では編み出せなかった生き物たちで溢れているのに。だって、胸を叩けば赤くなるでしょう、花の首をはねるような青白い手でも。 ✳︎✳︎✳︎ 空も、ひと…

未体験を語る

体験していないことを物語ってはいけないと、それは虚言だと指をさすなら、「最近、阿吽の仁王が夢に現れた。」と我々は夢さえ話すのも禁じられたろう。 猫の日なので、せっかくだから猫の寓話でも書こうかと座椅子でドーナッツ型に丸まった飼い猫を横に、来…

具体的な植物たちの名は

辺りを見回しても山、森、木、でしかなった。固有名詞を失った私の認知は抽象的なのだが、数年前のように描写や名前で外側の線を付け足してつけたして、現実に触れたり寄せたりしなくても焦らずにいられるのは、その良し悪しは別にしても強迫から多少抜け出…

運動不足

思考は凝り固まっていて、おまけに靄がかって糸筋も結べず、掴みづらい。

裸な文字

書き記すのは酷くエゴイストな行為で、視姦や恥辱でもあるのだろう。口は閉じているが、文字は発話よりだらしない。

螺旋と円環

私が成人で螺旋なら、わたしは子供であり老人で円環。前進と後退。この二人が自分の精神において遭遇してしまうのはドッペルゲンガーのように危ない気がするのだ、でも、なぜかはわからない。

いるのにいない安心感

草むらに横たわった雨傘、朽ち果てた家屋などの人々に見捨てられた物や廃墟は、暗闇で黒い手を眺めるのと同じぐらい落ち着く。(情報媒体でスポットを当てられるような場は除くとして。) 壁が崩れ、戸や窓ガラスも外れていて、常に家中は開かれているのだけれ…

捨てるような眠り

観葉植物を捨てた彼女は、この世界も拒むように眠る。髪や爪が、寝たきりでも伸びるのは、祈りと呪い。その間、私も硬直している。もう、そこら中で挿花を見ても平気だった。

悲しみを燃やす

去年の夏に嵐で折れてしまったミモザの木や、崩れた石垣を直すのと引き換えに伐った裏庭の二本の木を今日まで乾かしてきて燃やす。痛む、どうして何も思わないのか。そんな声も悲しみも、伐ってしまった木とともに暖炉にくべて、命をあたためる明かりにする。

水辺の懐古

書ければいいのだけど、とわたしは言っていたが。昔に、言葉へのおもいが強すぎて何も書けないのでは、と他人が慰めてくれたぬるま湯にいつまでも浸かっていて、私からすれば、わたしの場合は怠慢で書かないように思えた。 わたしの手に負えない子供たちは川…