とある散歩の風景

 丸太を組み立てた塀に赤いナツヅタが巻きつき、その下では、落ち葉や排水路の溝蓋の内部からすらりと高々に顔を出したくっつき虫のコセンダングサが黄色い花を咲かせていて、 死んだ植物に他の命が絡みついたり、すぐ側で芽生える感じに、私はハッとさせられるのだった。

 ここは夏にも歩いた。でも、感じられなかった。夜で、暗かったのだ。明るいうちに歩く冬のほうが、色々と昔も目にしていたのかもしれない。近頃は、顔や身体、心さえもさらされているようで落ち着かず、日に怖気づいていたけれど、明るいのも悪くない、と改めて思いなおしたのであった。


 あそこか、と青色を目印にしていた水門と市田川排水機場の間を通り、ようやく土手に着いた。今日はここに最初から来るつもりで家を出たのであった。だだっ広い赤茶けたアスファルトが一直線に続く道には誰一人いなくて、ススキや川、製紙工場がある他県の煙突のゆらめきなどを自分だけもののようにして歩きたかったのだった。けれど、煙は出ていなかったし、妙に風が強かった。普段は静かなのだが、ずっと耳の側でびゅーびゅーと賑やかな風の音が聞こえていて、冷たさで耳が痛んだ。そんな耳も懐かしく思えた。


 途中、ひび割れた線が走ったアスファルトの真ん中に、枯れた短い雑草がひびをつたって生えそろい、きっとK氏もこんな誰も目にとめようともしない枯草の前に座って、自然の優しさを見たのだろう、とK氏に少し近づけたようで胸がいっぱいになった気がした。


 土手を往復した後に帰ろうと思っていたのだが、川の影があった。市田川に架かる橋の欄干よりやや高い背丈で、柵のデザインが曲がっていた。垂直線上に太陽があり、欄干のかた ちを真似た影が、インターロッキングの彩り豊かな地面に伸びていたのだ。川の上に、川の影が出来てる、と愉快になり、影を踏んで、家とは逆方向の王子ヶ浜方面へ足を進めた。